はじめに
ここ最近、Twitterを始めとした各媒体で「NURO光が遅い/つながらない」といった問題を発端とする形で、インターネット速度測定サービスである「Speedtest by Ookla」を使って回線速度測定する方が増えているようです。
「体感速度は遅いのに数値だけ速い」「パケットロス率が高い」「回線速度が全然出ていない」といった多種多様な意見とともに、多くの人がスピードテスト結果を投稿しているようです。
しかし、残念なことに速度測定そのものに関するツイートや、その結果に対する意見・感想に至るまでが、Speedtestアプリに対する基本的な知識の不足から間違った結論を導いているパターンが多々見受けられています。
本業として多少なりともネットワーク関連業務をこなす身として、ベストプラクティスをまとめてみようと思います。
TL; DR
基本的には、以下の点を守ることで「公平かつ普遍的な数値を取得できる」と考えて良いと判断しています。
- 有線LANに接続したハイスペックなPCで計測する
- 測定サーバは「IPA CyberLab 400G(Tokyo)」もしくは「IPA CyberLab(Bunkyo)」を利用する
- ネットワーク設定からIPv6を無効化した状態で測定を実施する
- traceroute / tracert を使って、測定サーバまでの経路情報を必ず確認し、可能な限り速度測定結果とセットで公開する
各項目の詳細は下記に記載しますが、これらを守らないずに測定した場合は「あなたの環境ではそういう結果になるのかもですが、回線のせいかは分かりませんね」となってしまいます。
回線測定時に気をつけるべきこと
回線以外の要因をなるべく排除する
回線測定をする際に、回線以外の理由で速度が低下している場合は「回線速度が遅いことの証明」にはなり得ません。
有線LANで接続し、Wi-Fiでの接続はしない
例えば、スマートフォンやノートPCなどからWi-Fiで接続している場合です。
最近ではWi-Fi 6やWi-Fi 6Eなどの新規格により「Wi-Fiでも速度が出る」ということを謳っている機種は多数ありますが、残念ながらその性能をフルに発揮できるシチュエーションは限られており、外的要因により性能が変化しうるという点では速度測定に適しているとは言えません。
台風やゲリラ豪雨による雷雨、近所を走る違法無線トラック、地域の気象レーダー等によるDFSなどにより、無線LANの快適度は常に変化してしまいます。
もちろん、従来の2.4GHz帯を使っていた頃と比較すれば安定している部類ではあるのですが・・・。
速度測定をする際は、可能な限りONUやホームゲートウェイに近い位置のネットワーク機器(ルータ等)に有線LANで直接の接続をして計測をする必要があります。
高性能なPCで測定を行う
何を持って高性能とするかはともかくですが、「普段のPC動作すら重くてままならない」ようなパソコンで測定を行うのは論外です。
Speedtestは結局のところ、ブラウザ等が裏で大容量のファイルのダウンロード/アップロードを行い、その取得に掛かった時間等から速度を測定するツールです。
ブラウザの動作等が重くファイルのダウンロード/アップロードに影響が出ているような場合は回線のせいかどうかを判断することができなくなってしまいます。
可能な限り高性能なPC(ゲーミングPC等)を利用した回線測定をおすすめします。
適切な測定サーバを選択する
speedtest.net は、条件さえ満たしていれば個人から法人まで、どのようなサーバであっても登録することが可能です。
標準では「現在地から最も距離が近い場所として登録されているサーバ」が選択されますが、この設定が適切ではない場合が多々あります。
例えば、個人が運用しているサーバ等で「上限が1Gbps」なサーバがご近所で登録されていた場合に、そのサーバで10人が同時に測定を行ってしまった場合などは当然1Gbpsの数字は出るはずもなく、数百Mbps出れば良い方でしょう。
果たしてコレがあなたの回線速度でしょうか?違いますよね・・・。
オススメは、「IPA CyberLab 400G (Tokyo)」または「IPA Cyber Lab (Bunkyo)」のどちらかです。
これらのサーバは、国家資格である情報技術者試験などを実施している独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の産業サイバーセキュリティセンターが運営しているサーバで、運営者が明確で長期的な運営が見込まれる点と、運用されている回線が広帯域であることが明示されている点から選択しています。
IPA CyberLab 400G (Tokyo) について
国内の学術情報ネットワーク SINETに対して400Gbpsの接続をしている超高速サーバです。
ただし、SINETが提供する「インターネットとのアクセス回線」は最大が100Gbpsとなっている点から、実際の回線速度上限は100Gbpsと思われます。
(すなわち、400GbpsなのはSINETと接続する伝送装置まで?)
IPv4 / IPv6の両方に対応しており、以下のアドレスが転送先となっているようです。
- speed.udx.icscoe.jp
- IPv4: 219.100.92.195, 219.100.92.228, 103.95.184.77, 103.95.184.88
- IPv6: 2401:5e40:1000:1112::228
NUROやフレッツ光クロス等、現時点において民生向けに提供されている高速回線(2~10Gbps)であれば本サーバで殆どの場合は賄うことが可能と思われます。
IPA CyberLab (Bunkyo) について
国内の学術情報ネットワーク SINETに対して10Gbpsの接続をしている超高速サーバです。
サーバとしてはIPv4とIPv6の両方が存在するのですが、speedtest.netからはIPv4にしか接続できない仕様となっています。
- speed.coe.ad.jp
- IPv4: 103.95.184.74
- IPv6: なし
- speed.v6.coe.ad.jp
- IPv4: なし
- IPv6: 2401:5e40::5
- speedtest.net上から接続不可
10Gbps回線となっているため、フレッツ光クロスのような10Gbps回線では本サーバでは力不足となる可能性が高いため、前述の400Gサーバがオススメです。
なお、サーバ名に含まれる「Bunkyo」とはおそらく文京区のことを指しており、IPAのオフィスが存在する地名を含めているものと思われます。
IPv4接続で測定を実施する
ブラウザ版・アプリ版含めてspeedtest.netはIPv4/IPv6の両対応です。
ただし、殆どの場合において接続先サーバがIPv6に対応している場合はIPv6での接続・測定となってしまいます。
IPv4のアドレス枯渇が騒がれてIPv6への移行が始まってからかなりの年数が経っていますが、残念ながら世の中の多くのゲームサーバやウェブサービスはIPv4接続のみの提供が続いています。
例えば、NUROの件でもやり玉に上がっていたApex Legendsのサーバや、Nintendo Switchの各種オンラインサーバはいずれもIPv4のみの対応です。
JPNIC「IPv6におけるPPPoE方式とIPoE方式とは」より引用 |
NUROやau光などのフレッツ以外の回線を利用している場合は大きな影響がない場合も多いですが、フレッツ回線を利用している場合はIPv4とIPv6で伝送経路が全く異なる場合があるため、「IPv6の結果が速い/遅いから、IPv4も速い/遅い」という結果になりません。
前述の「IPA CyberLab 400G (Tokyo) 」のサーバを使った測定をする場合、IPv6が有効な状態で計測を実施した場合はIPv6接続での結果しか取得することができません。
事前に、PCの設定等からIPv6の設定を無効化してからの測定をオススメします。
※昨今はIPv6での接続が可能なWebサイトも増えていることから、速度測定が完了した後はIPv6有効化に戻すことを強く推奨します。
事情によりIPv6の無効化が難しいといった場合は、前述のIPA CyberLab (Bunkyo)サーバを利用することで、強制的にIPv4のみを利用した計測が可能です。
遅延については経路情報を必ずセットにしないと意味がない
Pingが大きい(RTTが遅い)・パケロスが多いといった情報も多々見受けられますが、このような情報を添付する際に「宛先サーバまでどのような経路で辿り着いているのか」が分からない場合は他人との比較が困難となります。
インターネットは「ウェブ」と称されるだけのことがあり、クモの巣状に張り巡らされたネットワークを介して通信をしています。
日経xTECH「Part4 プロバイダとIXを突き進む」より引用 |
この際に、自宅から宛先サーバまでの途中に「何か壊れていて遅いネットワーク」がある場合に通信が途切れたりRTTが増えたりするわけですが、他のユーザはこの地点を経由しない場合があります。
あるいは、他のユーザが遅いと言っているのにあなたが快適なのはこの「遅いネットワーク」を経由していないからかもしれません。
例えば、私の自宅(名古屋)では「フレッツ光(IIJ)」「コミュファ光」「IPv4 over IPv6 (transix)」の3経路でインターネットに出ることができますが、各3回線で以下のような経路の差異があります。
また、私の実家(東京)で利用している回線について、プロバイダとしては同じIIJを利用していてもこれほど経路の差が生まれます。(NTT東西の差も当然ありますが)
すなわち、単に回線速度結果だけを投稿するのでは「どうして遅いのか」という点を無視した結果だけとなり、「回線業者が遅いのか」「あなたの家だけが遅いのか」を判別することには繋がりません。
まとめ
再掲となりますが、Speedtest.netでの回線速度測定結果を添付した場合は、以下のルールに則ることで「まっとうな結果」が取得できます。
- 有線LANに接続したハイスペックなPCで計測する
- 測定サーバは「IPA CyberLab 400G(Tokyo)」もしくは「IPA CyberLab(Bunkyo)」を利用する
- ネットワーク設定からIPv6を無効化した状態で測定を実施する
- traceroute / tracert を使って、測定サーバまでの経路情報を必ず確認し、可能な限り速度測定結果とセットで公開する
なお、結果をツイートしたい!といった場合にそのままスクリーンショット等を撮影すると、自分のIPアドレスが写ってしまうため「投稿したくない」と思って画像の一部を隠す必要が出てきてしまいますが、実はリザルトページのURL末尾に「.png」を付与することで、以下のような画像を取得することができます。
https://www.speedtest.net/result/13721068510.png |
なお、他人と比較をする場合は「相手も同じ前提で測定をした場合」に限られます。
上記のルールに則していない他人の結果と、上記のルールに則した際の結果を比較しても大した意味がないということは念頭においておく必要があるでしょう。
おまけ
回線障害発生時に一般の人達がしばしば挙げがちな「DownDetector」ですが、このツールは全く信用がならないツールなので「見ない」「共有しない」「拡散しない」を徹底してほしいと考えています。
本ツールは実際の障害を検知しているかどうかとは関係なく、Twitter等のSNSで「障害」等の単語を検索して件数が増えた際にアラートを上げるような仕組みになっています。
極端な話を言えば、あるゲームサービスで「障害物競走」がテーマのイベント等が始まれば、間違いなくDownDetectorは障害を検知すると思われます。
参考として、IIJの堂前さんのツイートを貼っておきます。
DownDetector (ダウンディテクター) は情報収集の仕組み上、誤報を頻発させる特性があります。また、いったん発生した誤報を拡大するデマ拡散装置として働きます。障害情報は別の手段で確認すべきです。ダウンディテクターを判断のエビデンスとしてはいけません。
— doumae (@donz80) December 6, 2018